子どもの頃にはさほど好きでなかった花に、心惹かれるようになったことに最近気がつき、びっくりしている。
そのひとつに椿がある。しかしそのなかでヤブツバキは別格だった。
ヤブツバキだけは物心ついた頃から大好きで、木登りしたり、蜜を吸ったり、糸で繋いで花輪をつくったりして、気がつけばいつもヤブツバキのまわりで遊んでいた。
深緑色のつややかな葉が茂るなか、ハッと息を呑むほどの深紅の花は、たくさんの花をつけているにも拘わらず、なぜだか1本の花だけに吸い寄せられてしまう。それぞれみごとに咲いているのにである。そんな具合だからかヤブツバキの回りはどことなく静謐感が漂っている。
そんなヤブツバキと違い、大輪で、華やかで、斑や絞りの入ったものは苦手であった。「見て! 見て! 見て! 綺麗でしょ! 美事でしょ!」といわれているようで、子どもながらに鬱陶しく思えたのである。
その華やかなツバキたちをも突然、好ましく思えるようになったのである。
「年々にわが悲しみは 深くして いよよ華やぐ いのちなりけり」
残り時間が垣間見えるようになったせいかも知れない。
ともかく、春先になると一喜一憂。あげくは雑誌、書物、絵画などツバキとつくとすぐ反応してしまうようになったのにはわれながらあきれはてる。
さて今年はどんなツバキに出会えるのだろうか、楽しみである。
(T.T.)
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