まちに住む人々5―荒川の河川敷2

 ボクにはあらゆる分野に師匠がいます。まぁ、勝手にこっちが師匠と崇め奉っているんですが、中には、師匠と呼ばせてと宣言して呼ばせていただいている方もあります。

 と、こんなボクですが、逆にボクのことを“先生”とか“師匠”と呼ぶ人はいません。それはそれで、まぁ、一般的にはそんなもんでしょう。人に尊敬されることなどありゃしない。

 ところが、ボクのことを密かに“師匠”と奉っている方がありました。荒川の河川敷、アスレチックコーナーのオジサンです。いつもブルーの体操着を来たマッチョ。週何回か有料のアスレチッククラブ(公園仲間ではきわめて珍しい)に通っているそうで、その日以外は河川敷で腹筋や腕立てなどをこなしています。

 このマッチョオジサン、心根の優しい人で、他の人が腹筋台を使いたそうなときには、さりげなく他の器具を使って身体を鍛えたり……。言葉で「どうぞ」などといわないところがまた奥ゆかしい。

このマッチョオジサンとはさほど親しいわけではありませんでしたが、しっかりボクの柔軟体操を見ていたようで、ある時「チョット見て」と股開きのコーナーで、「こんなに開けるようになったんですよ」とお披露目。ボクの体操する姿を見て、一年掛けてここまで足を開けるようになるよう、毎日頑張っていそうで、畳一畳分ほどの木の台の上でも披露。そしてニッコリ。ご主人までとは行かなくとも師匠として毎日みながらそれを励みにしてやってきたんですよ、とのこと。そういえば、同じようなことをしていたようにも思います。

 人間、なんの取り柄もないようでいて、どこかいいところがある? (I.K.)